膝の痛みに悩まず人生を楽しみたい方へ。人工膝関節・部分置換術を知っていますか?
キーワード:膝の痛み、変形性膝関節症、人工膝関節、部分置換術、消炎鎮痛剤、ヒアルロン酸
豊岡第一病院 膝・スポーツ・人工関節センター長
金子大毅(かねこ・だいき)医師
慶應義塾大学医学部卒。医学博士。
日本整形外科学会専門医/日本整形外科学会認定スポーツ医
佐野厚生総合病院、浜松赤十字病院、国立病院機構埼玉病院等に勤務。
平成16年慶應義塾大学医学部整形外科助教。
平成17年防衛医科大学校整形外科助教。
平成23年豊岡第一病院 膝・スポーツ・人工関節センター長就任。
この季節、あなたは膝に痛みを感じたりしませんか?
寒くなると筋肉が緊張してこわばったり、痛みを感じる神経自体も過敏になります。
痛みを我慢する――それは日本人の美徳かも知れませんが、我慢するということは、病気を進行させてしまう恐れもあるのです。
気になるその膝の痛みについて、埼玉県の豊岡第一病院、膝・スポーツ・人工関節センター長の金子大毅先生にお話を伺っていきます。
中高年の膝の痛みはどのように起きるのでしょうか?
変形性膝関節症の治療について教えてください。
まずは保存的治療から。ダイエットは大切!
さて、変形性膝関節症に対して、筋力アップの指導やお薬を使った療法などを保存的治療と呼びます。治療はまずこれが基本。膝は体重を支える大切な関節なので、もっとも効果的なのはダイエットです。階段の上り下りのとき、瞬間的にかかる膝への衝撃は体重の3倍以上。10キロ痩せるとその衝撃も約30キロ分少なくなるのです。太ももの筋力トレーニングも大切ですね。
並行してお薬の治療もあります。消炎鎮痛剤や内服の痛み止め、またヒアルロン酸の膝への注射も痛みを和らげてくれる効果があります。このヒアルロン酸注射で痛みがコントロールできて、日常生活に困ってない人はしばらくそれでいいと思います。
ただ、残念ながらすり減った軟骨を再生させる薬はいまの時点ではありません。また軟骨は自然に再生することもなく、病気は進んでしまいます。保存的治療の効果が見られず、痛みが強くなってしまって日常的な活動が制限されてきたら次の段階です。行きたい旅行や買い物に出かけるのをためらったり、やめてしまったり……そこまで痛みが強まり日常生活に支障が出てきたら、人工膝関節置換術による治療をお勧めします。
人工膝関節置換術とはどんなものですか?
1回の入院で、両足を同時に手術する人も
人工膝関節置換術は、軟骨がすり減って骨が剥き出しになった部分を金属や特殊なポリエチレンでできた人工関節(インプラント)で膝を再建する治療です。膝関節全部を取り替える「全置換」と、膝関節の悪くなった内側だけを取り替える「部分置換」があります。O脚で膝の内側が悪くなる変形性関節症が多いですから、可能なかぎり「部分置換」を考えていきます。
「部分置換」は「全置換」に比べると、骨を削る量も出血量も少なく、リハビリによる回復速度も速い。膝の靱帯が温存されるので、動きもより自然です。動かし始め、歩き始めなどがすんなり入っていけるはずです。
最近は、両足同時に手術する方が増えました。入院、麻酔、手術すべて1回ですね。膝の悪い方はたいてい両側が悪いものです。程度にもよりますが、片側を手術して様子を見てと考えた方も、もう片側も手術しなければだめだということにすぐに気づきます。1回で済めば精神的にも経済的にも負担は減ります。両足同時手術でもリハビリはあまり心配いりません。人工関節自体は手術が終わった直後に立ちあがっても平気な強度でできています。翌日か翌々日には立ってから歩く練習をします。
手術後の患者さんの様子はいかがですか?
手術後にテニスを楽しむことも!
患者さんは、旅行や温泉に行けるようになったのを喜んでくれる人がとても多いですね。両足部分置換の手術をされた70歳くらいの男性はテニスを楽しんでいますよ。レクリエーションレベルなら問題ありません。ゴルフもスイング自体にはそんなに問題はないですね。斜面に打ち込んで駆けおりるなどは怖いですが(笑)。
先日、変形性膝関節症の症状を持つご両親を病院に連れてきてくださった方がいました。ひさしぶりに実家に帰ってみたら、ご両親とも膝が痛くて、家の中でハイハイして歩き回っていたと。それでふたりとも連れてきてくれたのです。もちろんおふたりとも手術して歩いて帰りましたよ(笑)。おふたり揃って、痛みのない人生の再スタートをきれたようです。
患者さんご本人だけでなく、まわりの方の気遣いもまた、こうした病気の治療にとても大切だと感じています。
部分置換術は負担が小さいのですね。
生体に近い動きが可能な人工膝関節・部分置換術
部分置換は、日本人に多いO脚などが原因で、膝関節の内側だけが傷んでいる場合に適用できます。症状にもよりますが、全置換に比べ、部分置換は、小さな人工関節を使うので、経験豊富な専門医であれば、手術は1時間程度で完了するケースが多く、入院期間は2~3週間程度が目安です。より早期の回復、社会復帰が期待できます。