現場レポート
-
3名の方が通われているのは、神戸市内にあるメディカルフィットネスクラブ「アガーラ」。ウォーキングマシンやトレーニングマシンが設置され、一見するところ一般的なスポーツジムのようです。もちろん、一般の方も利用できますが、異なるのは、厚生労働大臣が認定した運動型健康増進施設でもあるという点。健康運動指導士が常駐しており、介護予防のために運動をしたい方などの指導を行っています。さらにメディカルフィットネスの名が表す通り、医療機関と連携し、専門のトレーナーが医学的視点に基づいて、変形性膝関節症の手術後である3名のケースのようなリハビリ目的のトレーニングや指導も行っています。
みなさんはなぜこちらでトレーニングを始められたのですか?西:手術をしてくださった先生に勧められて。
亀井:私も「まだ痛いから無理」と訴えましたが、主治医の先生から「早く運動しなさい」と、やいのやいの言われて……(苦笑)
永野:僕もそうです。ただもともとテニスをずっとやっていたので、トレーニングをすること自体に抵抗はありませんでした。でも一般的なジムでは、手術後の膝の状態までは詳しく配慮してもらえないかもしれないし、自分でメニューを考えなくてはならなかったと思います。その点こちらでは、体調や力量に合わせて科学的に考えたメニューを組んでもらえる。そこがメディカルフィットネスのいいところだと思います。
西:病院ではたくさん患者さんがいますから、理学療法士の方にチェックしていただいて、ちょっと動かしたら時間切れ。「じゃあ、あとは家でリハビリ頑張ってくださいね」と言われても、主婦はなかなかそんな時間がとれません。いったん座って足を伸ばしてトレーニングを始めたら、簡単には立てないのに、主人から「おーい、お水を持ってきてくれ」なんて呼ばれたり……。がんばって早起きして1時間、毎日続けましたが、やはり自宅ではむずかしい。だから無理やりにでも時間を作って、フィットネスクラブに来たほうが確実でラクなんです。最初は痛いし、億劫でしたけれど、トレーナーの方についていただいて週に2回、3回のペースで続けると、ひと月もしないうちに杖なしで歩けるようになりました。もともとせっかちで早足ですが、同じように歩けるようになったんですよ。
亀井:そうそう。使わないと筋肉が衰えるのはわかっているんです。せっかく手術をしていただいても、リハビリをしないとよくはならない。でもどういうふうに筋肉を使えばいいのか、自分ではわかりませんよね。それに家にいたらついダラダラしてしまう。外に出て、決められた時間ならできる(笑)
みなさんのようにスムーズにトレーニングを始められる方ばかりですか?竹内:そうだといいのですが……(笑)やはり最初はみなさん、不安を覚えて当然だと思います。「いま曲がらない膝が、本当に曲がるようになるのか?」「痛いのが痛くなくなるのか?」などと、不安材料を抱えている方がほとんどです。トレーニング自体、最初は痛いのも事実です。
痛いことを望んでやる人はいませんよね。だいたいの方は、こちらのマシンを見ると、「無理。できない」とおっしゃいます。でも、手術後、家の中では歩いたり、椅子に座ったり立ったりしながら実生活を送られている。実は、こちらのトレーニングはその程度の動きで十分にできるものなんです。
アスリートではないのですから、ジャンプしたり、ハードな筋トレをしたりする必要はありません。まずは日常生活がスムーズに送れるようになればいい。そのために私たちは、どうすれば最初の一歩を踏み出していただけるのか、みなさんの不安をどう打破するのか、を考えます。そして「ではやってみましょう」と、実際にやっていただく。「できる」「動く」と実感していただくと、多くの方は、ある種の決意が芽生えて、「やってみよう」と行動に移せるようになります。あとは無理なく続けていただけるように、メニューを組んで一緒にやっていきます。
みなさんはトレーニングがつらいとか、やめたいと思うことはありませんか?西:きょうはいやだなあ、なんて日もありますよ。でも、運動したほうが、次の日がラクなの。
亀井:私も当日じゃなくて次の日のほうがラクですね。筋肉を使えば使うほど翌日がラク。
永野:ここに来る前は膝がちょっとこわばった感じでも、運動したら2~3日ものすごく調子がいいですね。軽くなります。僕は中学以来ずっとテニス一筋で、雨の日以外コートを走り回ってきた。だからもともと筋肉がついていたのかもしれないけれど、手術後はまったく痛みがなかったんです。人工関節にしたらもうテニスはできない、テニスをとったら何も残らないとガックリきていたのに、痛みがなくなった。すると俄然、欲が出てきて、リハビリを頑張ったらまたテニスができるんじゃないか……? それが励みになって続けていますね。実際に手術して半年経たないうちにコートに復帰しましたし、練習を始めたら試合に出たい、試合に出たら勝ちたい。そのためのトレーニングです。
亀井:私も「ママさん卓球」からいままでずっと続けてきたんですね。それが、膝が痛くなって思うように動けないものだから、新しく入ってきたメンバーに負ける。みんなどんどん上手になって、試合をしても負けてばっかり。それが悔しくて、悔しくて! だからまた運動して、筋肉をつけて、試合に勝ちたい。それがモチベーションにつながっていると思います。
西:私の家は坂の上の高台にありましてね、出かけようと思ったら、40段の石段を上り下りをしなくてはいけないんです。手術前は、上りはなんとかなりますが、下りが痛くて、痛くて、泣いていたの。それが治って本当に幸せ。手術は先生がやってくださるけれど、それだけじゃだめ。リハビリが大事。筋肉をつければ動けるようになるのですから、やらないなんてもったいない。実は手術をしたあとに夫が倒れたのですが、もし動けていなかったら看病もできなかった。リハビリをして動けるようになっていたから、思うように看病できました。80代に入りましたが、元気に仕事もやっています。現在があるからとても幸せだと感じています。
運動を続けるコツはなんでしょう?竹内:まず無理をしないことが何よりの秘訣です。長い時間をかけて膝がだんだん痛くなったということは、その間に筋力も低下しています。ですので、手術後、膝がすっきりしたからといって、すぐには筋力は戻りません。
簡単な運動から始めて徐々に改善していくことが大切です。基本的なことを繰り返し行いながら、膝がまっすぐに伸びるか、曲がるか、左右等しく動くか、といったことを私たちは見ていきます。そしてお一人おひとりの力がどのように改善されて発揮されているのか、その経過に応じて段階的にメニューを組み立てます。
いまみなさんはウォーキングや筋トレのマシンなどを組み合わせて1回につき約40分、それを週に2~3回のペースで続けておられますが、それで十分に改善されています。日常の不自由がなくなり、あたりまえのことがあたりまえにできるようになるのが第一。その次に趣味、レジャー、旅行と楽しみが増えていきます。運動嫌いで「2カ月しか通うつもりはない」と言っていたような方が、だんだん調子がよくなるとともに運動が好きになって、3カ月、4カ月と続けて運動習慣が身についていかれるのは、私たちにとってもうれしいことです。「肩こりがなくなって気持ちいい」と続ける方もいます。運動は年齢に関係なくいつからでも始められますから、ぜひやっていただきたいですね。
筋力をつけるということは、膝の痛みを予防するうえでも有効なのですか?竹内:もちろんです。膝の関節をサポートするのは筋肉ですから。最近よく耳にする「サルコペニア肥満」をご存じですか。サルコペニア肥満は、筋肉の量が減って、体力や生活機能が低下した状態に肥満が加わったものです。加齢とともに筋肉の量は減っていくものですが、そのまま何も運動しないでサルコペニア肥満になると、生活習慣病や寝たきりになるリスクも高くなります。ですから年齢を重ねるにつれて筋肉をつけることはとても大切です。全国各地にもメディカルフィットネスクラブや健康増進施設がありますから、膝の痛みを予防する意味でも、介護予防の意味でも、運動はぜひ続けていただきたいですね。
亀井:あと10kgやせなくちゃ(笑)。筋肉をつけながら!
永野:テニス仲間で人工関節の手術をしようかどうしようか迷っている人がいるんです。手術は怖いけど、僕の調子がよさそうならやってみようかな、と様子を見に来る。テニスの試合に勝って、その人に希望を持ってもらうためにも、リハビリは頑張って続けたいですね。
西:元気に動けるって本当にありがたいことですね。これからも運動を続けていくつもりです。
この記事が気に入ったら
いいね ! しよう