再生医療ガイド

最近、よく見聞きする「再生医療」ですが、いったいどんな医療で、どこまで進んでいるのか、ご存知ですか?
2014年に新たな法律がつくられ、日本政府は、再生医療で世界をリードしようと強い意気込みを見せています。ここでは、いま注目の再生医療によって、特に整形外科領域では、どのような治療が可能になるのか解説します。
再生医療とは?
「細胞の力」を使って失った機能を取り戻す医療
再生トカゲ トカゲのしっぽは切り離されてもまた元通りになりますが、トカゲほどではありませんが、人間にも、もともと「再生する力」があります。再生医療とは、ケガや病気などによって失ってしまった機能を、いわゆる“化合物”である薬でケガや病気を治療するのではなく、人のからだの「再生する力」を利用して、元どおりに戻すことを目指す医療のことです。
「幹細胞」と「体細胞」
私たちのからだは、約60兆個の細胞からできており、その始まりは、1個の受精卵です。受精卵が細胞分裂(増殖)によって「胚」になり、さらに細胞分裂を繰り返して多種多様な細胞に成長し、皮膚や脳、心臓といった組織や臓器がつくられます。このように、細胞が様々な組織や臓器に変化することを「分化」と言います。

一方、細胞には寿命があり、多くの細胞は分化すると増殖することができなくなり、やがて死んでいきます。例えば、肌をこすって垢が出るのは、皮膚の死んだ細胞が剥がれ落ちるからですが、その下にすでに新しい皮膚があるのは、組織の中には、新しい細胞を補充する役目をもつ未分化な細胞があるからです。完全に分化し、皮膚や血液のように組織や臓器となった細胞は「体細胞」、これからいろいろな組織や臓器になれる未分化な細胞は「幹細胞」と呼ばれています。

現在、再生医療では、この「幹細胞」や「体細胞」それぞれを利用して、ケガや病気で損傷した部分に移植して組織の再生を促したり、根本的な治癒を目指す「細胞移植治療」が行われています。
「幹細胞」と「体細胞」
「幹細胞」による再生医療
再生医療で注目されている幹細胞は大きく3種類
現在、私たちが再生医療として受けることができる、もしくは将来その可能性がある幹細胞は、大きく3種類あります。それは、もともと私たちのからだの中に存在している「体性幹細胞」と、胚(受精卵)から培養してつくられる「ES細胞」、人工的に作製される「iPS細胞」、です。
この大きく3種類の幹細胞の中で、最も医療への応用が進んでいるのは「体性幹細胞」です。人間の体の中にもともとある細胞を使うため、治療に応用しやすい特徴があります。
「体性幹細胞」による細胞移植治療
体性幹細胞」には、いくつか種類があり、その代表的なものに「間葉系幹細胞」があります。「間葉系幹細胞」は、骨、軟骨、脂肪細胞などいくつかの異なった組織や臓器に分化する能力があります。

1970年代には骨髄の中にあることが発見されていた「間葉系幹細胞」は、治療が困難な脊椎損傷や肝機能障害などの治療に期待されており、これまで骨髄由来の「間葉系幹細胞」の治療への実用化を目指して、臨床研究が多く行われてきました。ところが、骨髄由来の幹細胞は採取できる量が限られており、移植するには体外で培養し、増殖しなければならないことが多く、感染や異物の混入などを防ぐための幹細胞培養施設(CPC)も必要になります。

一方、最近、注目され始めているのが脂肪由来の「間葉系幹細胞」です。2001年に骨髄由来と同等の能力があり、なおかつ、より大量に確保できる脂肪由来の「間葉系幹細胞」が発見されてからは、これを関節軟骨などの再生治療に応用する研究が行われるようになりました。
「ES細胞」、「iPS細胞」による細胞移植
ES細胞」と「iPS細胞」は、「体性幹細胞」と違い、様々な組織や臓器に分化する能力を持つ万能細胞です。「ES細胞」のほうが先に開発されましたが、「ES細胞」は受精卵が胎児になる途中の胚の中にある細胞を採り出して培養し、作製するため、本来赤ちゃんになれる細胞を利用するという倫理的な問題があります。

それに対して「iPS細胞」は、成熟した体細胞にいくつかの遺伝子を入れて人工的に未分化な状態に逆戻りさせた幹細胞です。「ES細胞」と同等の能力がある上に、倫理的な問題を解決したことで注目され、2012年には「iPS細胞」を発明した京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞しました。

iPS細胞」は、2014年に世界で始めて、実際の患者さんへの臨床研究として、網膜色素上皮細胞の移植手術が行われ、実用化への期待が高まっています。将来的には、腎臓や心臓といった臓器を丸ごとつくり出すこともできるのではないかと、大きな期待が寄せられており、根治が難しい病気を中心とした細胞移植治療の研究が進められています。一方で、「iPS細胞」は、万能細胞であるために、意図しない細胞に分化するリスクや、ガン化するリスクも高いため、同時にこれらの課題を解決するための研究も進められています。


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