再生医療現場レポート
エリア
東京都
膝関節の変形性関節症に新たな治療選択肢
ご自身の血液を使ったAPS療法とは
東京医療センター
人工関節センター センター長
ドクタープロフィール
専門領域:股関節、人工関節手術、骨粗鬆症
専門医等:日本整形外科学会専門医
東京医療センター
人工関節センター 副センター長
ドクタープロフィール
専門領域:膝関節、人工関節手術
専門医等:日本整形外科学会専門医
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加齢によって関節の軟骨がすり減り、変形や痛みを伴う変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)。その新たな治療選択肢として、患者さん自身の血液を使った再生医療「APS(自己たんぱく質溶液)療法」があります。変形性関節症の一般的な治療法やAPS療法について、東京医療センターの藤田貴也先生、金田和也先生にうかがいました。
APS療法に適した疾患とその一般的な治療について教えてください藤田 APS(自己たんぱく質溶液)療法は、関節の軟骨がすり減ることで変形や痛みが生じる変形性関節症に対する治療として期待されています。膝の変形性関節症に対する保存療法としては、消炎鎮痛剤の外⽤と内服、ヒアルロン酸注射、ステロイド注射、大腿四頭筋を鍛える筋力トレーニングや体重コントロールの生活指導などが一般的です。それでも改善されない場合は、変形の状態や進行度などに応じた手術が選択されることがあります。年齢によって術式を検討することが多く、70歳前後までの比較的若い方では、膝の変形を矯正する骨切り術を行うことがあります。70歳代以上になると人工の膝に置き換える人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)が選択されることがあります。そして最近になって、保存療法で改善されない方や手術を希望されていない方に、このAPS療法という新たな治療選択肢が加わりました。
APS療法の特徴について教えてください金田 これまで変形性関節症の治療では、保存療法が効かなくなると次の選択肢は手術療法しかありませんでした。しかし、すぐに手術に踏み切れない患者さんは多く、手術に抵抗があったり、様々な事情によって入院が難しかったり、既往歴によっては手術が出来ないケースもあります。APS療法は保存療法と手術療法の間をつなぐ治療法として注目されている再生医療です。
APS療法は、まず患者さんから血液を採取して遠心分離を行い、血小板を多く含む成分を抽出します。そこからさらに脱水・濃縮を加え炎症を抑えるたんぱく質や成長因子を高濃度に含んだAPSを膝関節内に注入するというのが一連の流れになっています。治療するにあたり、入院の必要はありません。
APS療法は、厚生労働省が定める再生医療法(再生医療等の安全性の確保等に関する法律)のもと、届け出が受理された施設でのみ受けることができます。また保険適用外の治療になるので、金額は医療機関によって違いがあります。全額自己負担になりますが、医療費控除の対象になる場合があります。APS療法の流れ
APS療法によって軟骨が再生するのでしょうか?藤田 再生医療と聞くと、軟骨が元に戻るようなイメージを持たれますが、そのような効果はありません。そもそも軟骨や半月板は血管のない組織になるので、自己修復することができない組織になります。APS療法により血液に含まれる炎症を抑えるたんぱく質や成長因子を膝関節内に入れることで炎症の改善が期待できます。それにより変形性関節症による痛みの軽減や膝に水がたまりにくくなることが期待されています。
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