再生医療現場レポート
変形性膝関節症に期待される再生医療
専門医に相談し十分納得した治療選択を
ドクタープロフィール
福井医科大学医学部卒業。福井大学医学部整形外科講師を経て、2004年大森整形外科リウマチ科を開設
資格:日本専門医機構整形外科専門医、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医、日本抗加齢(アンチエイジング)医学会専門医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医、日本スポーツ協会スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本医師会認定産業医、日本リウマチ財団リウマチ登録医、日本骨粗鬆症学会認定医
エリア
福井県
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中高年女性に多く見られる膝の痛み。加齢で軟骨がすり減ることによる変形性膝関節症が主な原因です。治療は、リハビリなどの保存療法や人工膝関節置換術をはじめとする手術が行われていますが、近年期待されている新しい治療法が「再生医療」。ただし、再生医療を受ける場合、患者さん自身が十分納得して受けることが大事とおっしゃる大森整形外科リウマチ科理事長の大森先生に、変形性膝関節症の原因や治療方法、APS療法について伺いました。
膝の痛み。中高年女性に多い「変形性膝関節症」について教えてください。膝関節(ひざかんせつ)は、骨の表面にある軟骨(なんこつ)がクッションのような役割を果たし、膝を衝撃から守っています。この軟骨が加齢とともにすり減り、膝の腫れや痛みといった症状が出てくるのが変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。肥満や運動不足によっても悪化しやすく、進行すると骨まで変形してしまいます。重症化すると歩く、立ち上がるといった基本的な動作も難しくなり、膝のこわばりや可動域制限(かどういきせいげん)があらわれるなど日常生活にも支障をきたすようになります。加齢と深く関わっている疾患(しっかん)なので、高齢化の進展とともに患者数が増えています。初期の治療は保存療法が中心になります。痛み止め薬や、関節の滑りをよくするヒアルロン酸を関節内に注射して症状を軽くするのです。電気治療などを加える場合もあります。同時に、リハビリテーションで関節の可動域訓練をすることも重要です。
変形性膝関節症5段階
変形性膝関節症にはどのような手術方法があるのでしょうか?骨切り
変形性膝関節症の手術には、主に骨切り術(こつきりじゅつ)と人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)があります。変形の進行度合いなどにより、その方に合った手術方法が提案されます。
日本人の場合、膝の内側が変形しO脚になっている方が多いので、内側に偏った荷重(かじゅう)ストレスがかかっています。骨切り術は、自分の骨を切って角度を少し変えO脚からX脚ぎみに矯正する手術です。痛みが改善するだけでなく、自分の関節を残した(温存した)まま機能を維持するため、正座が引き続き可能であったり、スポーツや農業などの仕事に復帰しやすくなります。全置換術と部分置換術
人工膝関節置換術は、傷んで変形した膝関節の表面を取り除き人工関節に置き換える手術です。人工膝関節置換術には、膝関節の表面全部を置き換える全置換術(ぜんちかんじゅつ)と膝の内側だけ悪い場合は、悪い部分だけを置き換える部分置換術(ぶぶんちかんじゅつ)があります。近年では、コンピューターナビゲーションを用い、より正確に人工関節が設置できるようになっているだけでなく、患者さんのMRI画像をもとに膝の実態模型を事前に作成し手術を行うことで、より正確に手術が行えるようになってきています。また、手術後の痛みを軽減させる技術も進歩してきています。硬膜外麻酔(こうまくがいますい)を使用したり、手術中に患部(かんぶ)に痛み止めなどを数種類使用した薬剤を注射することで(関節周囲多剤カクテル療法)、以前よりも手術に伴う痛みが軽減し、手術直後からスムーズにリハビリを開始できるようになっています。
整形外科ではどのような再生医療が行われているのでしょうか?保存療法だけでは症状が改善しない場合、これまでは手術を検討するのが一般的でしたが、新しい治療法として自分自身の血液を使用した「再生医療」が期待されています。
そのひとつに「PRP療法」があります。PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう))は、ご自身の血液に含まれる血小板(けっしょうばん)の成長因子(せいちょういんし)が持つ組織修復能力を利用し、ご自身に本来備わっている「治る力」を高め、自己治癒(じこちゆ)を目指す方法です。
PRPから炎症(えんしょう)を抑制する成分など、関節の健康に関わる成分を取り出したものがAPSと呼ばれています。APS療法(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)は、PRPよりも炎症を抑制するたんぱく質や成長因子を多く含んでいます。そのため、痛みの原因になっている炎症を抑え痛みを軽減する効果や、膝軟骨が破壊されるのを抑制することが期待されている治療法です。
PRP療法、APS療法ともに、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づいて、国に届出が受理された医療機関でしか受けることができません。また、治療を行った場合は、その内容を国に報告することが求められています。
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