再生医療現場レポート
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CHAPTER 01変形性膝関節症のさまざまな治療法
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CHAPTER 02軟骨を再生するのではなく、炎症にはたらきかけるAPS療法
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CHAPTER 03自分の症状にあった適切な治療選択を行いましょう
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血液中にある組織を修復する成長因子の力を利用して、人が本来持っている治癒力を引き出す再生医療に注目が高まっています。膝などの関節の痛みに再生医療はどのように使われているのか、大山整形外科診療所の大山輝康先生を訪ねました。膝痛の原因に多い変形性膝関節症とはどんな疾患ですか?変形性膝関節症
変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)は中高年に多い疾患です。太ももの骨とすねの骨の間にある軟骨が加齢とともに摩耗し、骨同士がぶつかるために痛みが生じます。レントゲン画像から症状の程度を表すグレードは0から4まで5段階あります。関節の変形が強くない初期のうちは、保存療法(手術以外の方法)が用いられます。
保存療法でメインとなるのはリハビリなどの理学療法です。特に大切なのが、膝関節にある半月板(はんげつばん)という組織の位置を正しい位置へ戻す運動です。半月板は加齢とともに内側または外側にずれてしまうことがあり、それがきっかけで変形性膝関節症が進行することも少なくありません。この運動に加えて、関節周りの筋肉を鍛えることで安定性が増し、症状が緩和される患者さんも多くいらっしゃいます。また、並行してヒアルロン酸注入や痛み止めの湿布薬も使いながら、経過をみていきます。
グレード4以上になると軟骨が消失しているケースが多く、手術が選択肢に入ってきます。主な手術には骨切り術(こつきりじゅつ)や人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)があります。骨切り術はすねの骨を切って変形を矯正する手術で、自分の軟骨や関節を残したまま元の機能への回復を目指します。変形が強い場合は、傷んだ関節の表面を取り除き、人工関節と取り替える人工膝関節置換術が適応となります。技術の進歩に伴い、人工関節の耐用年数は昔よりもずいぶん延びました。現在では、30年とも言われています。人工膝関節置換術
骨切り術
最近よく聞く「再生医療」、整形外科領域では?人が本来持っている自然治癒力を生かす、再生医療。整形外科の領域で活用されている再生医療はさまざまな種類がありますが、近年血液を使った治療が注目されています。まず、自分の血液中に含まれる血小板(けっしょうばん)や白血球(はっけっきゅう)の働きを利用したPRP(多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう))療法。血小板や白血球には、成長因子を放出して損傷した組織を修復するはたらきがあることから、腱(けん)や筋肉、靭帯(じんたい)などの傷んだ部分に作用させて治癒のスピードを速めることが期待されています。海外では10年以上の実績があり、靭帯損傷を負ったスポーツ選手の早期復帰を促す治療としても有名になりました。治療の流れとしては、患者さんから採血した血液を遠心分離機にかけ、血小板や白血球を多く含むPRPを取り出した上で患部に注射します。もう一つが、次世代PRPと呼ばれるAPS(自己タンパク質溶液)療法です。PRPを脱水・濃縮し、炎症にはたらきかける成分を高濃度に抽出して患部に注射します。こちらは特に変形性関節症への治療が期待されています。どちらの治療も採血から患部投与まで、全体の所要時間は約1時間半。外来で受けることが可能です。
APS療法の流れ
PRP・APS療法はどの医療機関でも受けられますか?厚生労働省が定める「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」のもと、2018年から国への届け出が受理された施設でのみ行うことができるようになりました。APS療法は国内での治療が可能になってから年数が浅いので、臨床結果を全例、報告する義務があります。有効性については未だ検証段階ですが、十分なデータが揃っていけば、今後は導入する医療機関が増えていくことが予想され、患者さんにとっても治療の選択肢が広がるでしょう。
ただし、PRP療法もAPS療法も保険適応外の治療であるため、自由診療となります。全額自己負担であり、費用は施設により異なります。
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